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INDEX

Vol.7

1.観察研究

Dukyoo Jung PhD RN, Hyesoon Lee PhD RN, Eunju Choi MSN, Jisung Park MSN RN, Leeho Yoo MSN RN (2024)
Description of the mealtime of older adults with dementia in a long-term care facility: A video analysis
認知症高齢者の食事時間の観察記録:動画分析
Geriatr Nurs. 2023 January–February; 55:176--182.
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.10.029


要旨

 高齢者施設における認知症高齢者の食事時間の構造(高齢者の行動や介護者とのやり取り)を分析した。2つの高齢者施設において、10人の利用者と24人の施設スタッフによる計41組の動画による観察を行った。平均食事時間は12.21 ± 5.16分であり、利用者の口にスプーンが入ってから出てくるまでの1回の摂取時間は0.21 ± 0.21分、口の中に食物が入り次の食物が口の中に入るまでの摂食の間隔の中央値は0.17分であった。介護者による言語的な支援の平均時間は1.41 ± 1.31分であり、言語的支援の頻度は、平均23.92 ± 15.50 回と少なかった。食事の間、利用者は平均5.00 ± 4.07回、適切に食事をとることができなかった。今回の動画観察は、高齢者施設の利用者に質の高い食事を提供するために、患者中心の理念に沿ったスタッフ向けの教育を組み込んだ、十分な人員配置による食事介助プログラムを実施する必要性を示した。


国際交流委員会からのコメント

この研究では、食事時間の構成要素を明らかにするために、先行研究から摂取回数、1回の摂取時間、食事間隔、食事中のスタッフの不在、食事の準備、食事の種類、食事方法(入居者が行う、スタッフが支援する)、スタッフの行動(言葉による介助、触れ合い、言葉による介助と触れ合い)、スタッフの存在(スタッフの出勤、退勤、交代)、入居者の食事困難(咳嗽、口の中にスプーン入れるときにスプーンを落としてしまった、拒否、スプーンを噛む)といったコードを設けています。認知症の方の行動を観察する上で、その方法論を示唆してくれる内容と思われました。動画を用いた対象者に対する細かな行動の観察が更に質の高いケアの開発につながるものと考えられました。


2.システマティックレビューとメタ分析

Yu Peng MSN, Yang Liu MSN, Zhongxian Guo MSN, Yuhan Zhang PhD, Liyan Sha PhD,Xiaorun Wang MSN, Yang He PhD (2023)
Doll therapy for improving behavior, psychology and cognition among older nursing home residents with dementia: A systematic review and meta-analysis
認知症のあるナーシングホーム入居者における行動、心理、認知の改善のためのドールセラピー:システマティックレビューとメタ分析
Geriatr Nurs. 2024 January–February; 55: 119-129.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.10.025


要旨

 目的:認知症のあるナーシングホーム利用者における行動、心理、認知に対するドールセラピー(DT)の効果を探索することである。方法:システマティックレビューとメタ分析を行った。介入の特徴が効果量に影響したかどうかを明らかにするためにサブグループ解析を行った。結果:10の論文が包含基準に合致しており、それらを質的および量的に統合した。全体の方法論的な質は比較的高いものであった。DTにより、興奮(SMD[標準化した平均値の差:Standardized Mean difference]=-0.94, P<0.001)、無気力、焦燥、徘徊といったすべての行動と心理状態(楽しみ、不安、抑うつ)は有意に改善していた(SMD=-0.42, P=0.01)。しかし、認知においては有意な差はみられなかた。サブグループ解析によって、共感人形(エンパシー・ドール)の使用や介護者と一緒にコーディネーションを行うといったDTのプロセスを特徴として含む介入のほうが、すべての行動の改善に、より有益であることが明らかとなった。結語:DTは認知症のある高齢ナーシングホーム利用者の行動的、心理学的障害を有意に軽減していた。特に、共感人形の導入や介護者との調和は最も適切で効果的な選択肢と思われる。


国際交流委員会からのコメント

本研究は、ドールセラピーについて中国の研究者がまとめたもので、PRISMAガイドラインに則って行われた研究です。2006年から2022年の間に出版されたスイス、イタリア、トルコ、オーストラリア、韓国、イスラエル、イギリスで行われた10本の論文がメタ分析に使用されました。行動のアウトカムとして興奮、無気力、焦燥、徘徊を、心理学的アウトカムとして喜び、不安、抑うつが使用されていることを明らかにしています。これらのアウトカムの測定にはNPI、CMAIといった尺度が用いられていることや認知能力のアウトカムにはSPMSQやMMSEが使用されていることが把握できます。この研究では、使用された人形の種類による効果も検証しており、子供を抱いたり、見つめたり、触れたりとする感覚を蘇らせる共感人形(エンパシー・ドール)のほうが、微笑んだり目を開け閉めする本物そっくりの赤ちゃん人形よりも行動の効果において優れていたことを明らかにしています。なお、メタ分析の統計解析についてはhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/61/8/61_61.8_694/_pdfで解説されています。


3.ランダム化比較試験

De La Vega-Cordero Edna Mayela MSN, López-Teros Miriam PhD, García-González Ana Isabel MSc, Rosas-Carrasco Oscar MD, Castillo-Aragon Alejandra MSN (2023)
Effectiveness of an online multicomponent physical exercise intervention on the physical performance of community-dwelling older adults: A randomized controlled trial
地域在住高齢者の身体機能に対するオンライン複合的身体運動介入の効果:ランダム化比較試験
Geriatr Nurs, 2023 November-December: 54: 83-93.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.08.018


要旨

 この研究の目的は、高齢者の身体機能に対して、オンラインによる様々な運動を組み合わせた介入(MPE)の効果を評価することである。MPE群(46名)と対照群(42名)においてランダム化比較試験を実施した。MPE群では持久力、筋力、バランス、柔軟性のエクササイズを週3日以上行い、対照群では教育セッションだけを実施した。身体機能を、ベースラインと3ヵ月後にSPPB(身体機能バッテリー短縮版:Short Physical Performance Battery)によって評価した。MPE群では対照群と比較して、SPPBスケールで平均0.81点(95%信頼区間0.23-1.40;p=0.000)、タンデムバランステストで1.26秒(95%信頼区間 0.21-2.31;p=0.019)の増加がみられた。これらの結果から、オンラインMPE介入は地域在住高齢者の身体機能を強化するのに有効といえ、高齢者における機能依存性を軽減するのに役立つかもしれない。


国際交流委員会からのコメント

オンラインによるエクササイズの効果をみた研究です。MPE群では、身体機能バッテリー短縮版(Short Physical Performance Battery:SPPB)を用いて、対象者をさらに3つの活動レベル(フレイル、プレフレイル、活発)に分類し、そのレベルごとに異なる運動プログラムを提供しています。先般の新型コロナウイルス感染症の蔓延期では様々な介護サービスが制限され、高齢者の筋力が低下したといわれています(https://doi.org/10.3143/geriatrics.59.491)。オンラインによる介入の拡充は、今後も襲来の可能性のある新型感染症蔓延期の生活不活発病予防につながるとともに、健康寿命を延伸させる効果的な方法と思われます。


Vol.6

1.介入研究

Michelle Leanne Oppert PhD, Melissa Ngo BA Psych, Gun A. Lee PhD, Mark Billinghurst PhD, Siobhan Banks PhD, Laura Tolson BA Law (2023)
Older adults’ experiences of social isolation and loneliness: Can virtual touring increase social connectedness? A pilot study
高齢者の社会的孤立と孤独の経験:仮想ツアーは社会的つながりを増やすことができるか? パイロットスタディ
Geriatr Nurs. 2023 September–October; 53: 270-279.
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.08.001


要旨

 本パイロットスタディは,在宅生活を送る高齢者がどのように社会的孤立や孤独を経験しているかを理解し,仮想ツアーのデジタル技術が社会的つながりを増加させるかどうかを探索することを目的とした(N=10). インタビュー,経験,フィードバックの結果を重ね合わせて検討することを通して,この研究は,高齢者の幸福に関する知識に貢献し,特に仮想観光などのデジタル技術がこのプロセスにどのように役立つかを示している. 当該研究の参加者は,中程度の孤独感を抱えていたものの,より多くのデジタル技術を受け入れる意欲があり,それが社会的つながりや生活の管理を促進するのにどれほど有益かを共有していた. 仮想ツアーの体験に参加することは,喜びや郷愁,将来の利用に興味を示すなど,よく受け入れられていた.しかしながら,社会的つながりの増加への貢献が明確にされ,さらなる調査を実施していく必要がある. いくつかの将来の研究および教育の方向が提供されている.


国際交流委員会からのコメント

この研究では,オーストラリアで在宅生活を送る高齢者が,社会的孤立や孤独をどのように感じているのか,デジタル技術の使用についてどのように考えているのかについて,インタビューで回答した後に, バーチャルリアリティ(virtual reality)ヘッドセットあるいはタブレットを用いて,約30分間自身の思い出や関心のある場所や風景の映像を見る仮想ツアーに2回参加しました. 仮想ツアーとは,VRを使った観光の疑似体験のことです.仮想ツアーに参加後,再度同様の内容のインタビューを受けた結果がまとめられています. 1回目は,プライバシーの保護について心配しテクノロジーの利用に難色を示していた高齢者も,2回目の体験後には,実際のツアーと同じであるとは感じられないものの,社会的交流を図るのに有効である, 他者と一緒にいるように感じる,もう一度ぜひ利用したといった肯定的な考え方に変わっていました.また,どの高齢者においても家族や友人といつでも連絡が取れるといったテクノロジーの利点を感じており, 心配事がありながらも,外出することなく他者と交流ができる点に賛同する高齢者もいました.ツアー内容の構成やプライバシーを考慮する必要はありますが, 回想法的な関わりのなかでデジタル技術を活用することでよりよい高齢者ケアに繋がる可能性があると思いました.


2.観察研究

Ryo Miyazaki PhD, Takafumi Abe PhD, Naoki Sakane MD, PhD, Hitoshi Ando MD, PhD, ShozoYanoMD, PhD, Kenta Okuyama MPH, Minoru Isomura, Masayuki Yamasaki, Toru Nabika MD, PhD (2023)
Associations between dairy consumption and the physical function in Japanese community-dwelling older adults: The Shimane CoHRE study
日本の地域在住の高齢者における乳製品摂取と身体機能との関連:島根CoHRE研究
Geriatr Nurs. 2023 September–October; 53: 19-24.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.06.014


要旨

 本研究の目的は,地域在住の高齢者の間での乳製品摂取と身体機能の関連における性差を調査することであった.本研究には656人の高齢者(平均年齢75.6 ± 6.4歳)が参加し, 乳製品摂取(5項目のLikertスコア)と身体機能(歩行速度,握力,および骨格筋量)を測定した.共変量を調整した多重線形回帰分析により, 乳製品摂取と身体機能の指標との線形および二次の関連を調査した.結果として,女性では,共変量を調整した後でも,乳製品摂取量が多いほど,握力が向上し, 歩行速度が速くなっており,乳製品摂取量と,握力及び歩行速度は有意に線形に関連していた(いずれも p<0.05).一方,男性においては,乳製品摂取は身体機能の指標とは関連していなかった. 乳製品摂取はいずれの性別でも筋量とも関連していなかった.乳製品摂取の増加は,高齢の女性において優れた身体機能と関連していた.


国際交流委員会からのコメント

この研究は,日本の島根県の地域在住高齢者を対象として,島根大学に設置されている地域包括ケア教育センターにおいて実施されたものです. 日常における乳製品の摂取量は,厚生労働省と農林水産省により推奨されている食事バランスガイドに基づいて,牛乳やヨーグルト,スライスチーズに乳製品摂取量を換算し, 1)とらない,2)週に1~2本,3)1日に半分,4)1日に1本,5)1日に2本以上,の該当する量をアンケート用紙を用いて参加者に選択してもらっています. 女性において,年齢や高血圧,糖尿病の既往などの共変量を調整し分析した結果,乳製品摂取量が多いほど,握力や歩行速度が向上していた一方,男性においては, 乳製品摂取量は身体機能の指標とは無関係という,興味深い結果が得られていました.脂質を含んだ乳製品を区別したり,摂取エネルギー量には言及されていないため, どの乳製品がより身体機能の向上に寄与しているのかについては更なる調査が必要かもしれませんが,日常生活において乳製品摂取の大切さを意識させられる論文でした.


3.観察研究

Jiurui Wang MSN, Shengjia Xu MD, Jian Liu MSN, Zeping Yan MSN, Simeng Zhang MSN, Mengqi Liu MSN, Xiaoli Wang MSN, Zhiwei Wang MSN, Qian Liang MSN, Xiaorong Luan PhD (2023)
The mediating effects of social support and depressive symptoms on activities of daily living and social frailty in older patients with chronic heart failure
慢性心不全高齢患者における日常生活活動と社会的フレイル対する社会的支援と抑うつ症状の媒介効果
Geriatr Nurs. 2023 September–October; 53: 301-306.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.08.003


要旨

 本研究の目的は,慢性心不全(CHF)を有する高齢患者における社会的フレイル(SF)の水準を調査し,日常生活活動とSFの間における社会的支援と抑うつ症状の媒介効果を検証することであった. 便宜的な抽出方法を用いて,2021年11月から2022年5月までの期間に中国で205名のCHF高齢患者へ自記式質問紙を用いて日常生活活動,社会的支援,抑うつ症状,およびSFに関するデータを収集した. 構造方程式モデリングを用いてデータを分析した.分析の結果,最終モデルは良好な適合性を示し,CHFを有する高齢患者における日常生活活動はSFと直接関連していた. 多重媒介分析の結果,日常生活活動とSFの関係は,社会的支援(effect:-0.010,95%CI:[-0.021,-0.003])および抑うつ症状(効果:-0.011,95%信頼区間[-0.019,-0.005])によって個別に媒介され, 連鎖的にも媒介されていた(効果:-0.007,95%信頼区間[-0.012,-0.003]).日常生活活動とSFの関係において社会的支援と抑うつ症状は多重媒介変数である.日常生活活動は, 社会的支援と抑うつ症状を介して患者のSFを改善することができる可能性がある.


国際交流委員会からのコメント

社会的フレイル(SF)とは,基本的な社会的ニーズを満たすために重要な1つ以上の資源の喪失により脆弱性が高まった状態を示し,個人の生活の質を評価する重要な指標とされています. 慢性腎不全を有する高齢者のうち66.5%の方がSFの状態であり,SFは,QOLの低下や認知機能障害,再入院のリスク要因であると報告されています. 加齢に伴い,ADLを維持することが困難になっていく状況のなか,フォーマル,インフォーマルな社会的支援を充実させることが,抑うつ症状やSFの低下に繋がると結論づけられていました. 今後,日常生活活動を向上させる介入が社会的フレイルの予防につながることを示す具体的な介入研究が実施されることを期待しています.


Vol.5

1.介入研究

Hsiao-Ying Wu PhD, Ai-Fu Chiou PhD (2023)
The effects of social media intergenerational program on depressive symptoms, intergenerational relationships, social support, and well-being in older adults: A quasi-experimental research
高齢者のうつ症状,世代間関係,ソーシャルサポート,ウェルビーイングに対するソーシャルメディアによる世代間交流プログラムの効果:準実験研究
Geriatr Nurs. 2023 July–August; 52: 31-39.
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.05.008


要旨

 本研究の目的は,高齢者の抑うつ症状,世代間関係,ソーシャルサポート及びウェルビーイングに対する,ソーシャルメディアによる世代間交流プログラムの効果を検証することである.本研究の参加者は,介入群50名,対照群50名,計100名の高齢者であった.介入群の高齢者は,5週間のソーシャルメディアによる世代間交流プログラムを実施し,対照群の高齢者は,通常の日常生活を送った.ベースライン,介入実施から5週間後および9週間後に質問紙によりデータを収集した.本研究では,高齢者の約35%が軽度から重度の抑うつ症状を有していた.研究の結果,介入群は対照群と比較して介入後5週目と9週目に,抑うつ症状,世代間関係,ソーシャルサポート,ウェルビーイングすべてにおいて有意な改善を示した.ソーシャルメディアを活用した世代間交流は,高齢者の抑うつ症状の改善,世代間関係の促進,ウェルビーイングの向上ために推奨される.


国際交流委員会からのコメント

この研究は台湾で実施された準実験研究です.ソーシャルメディアを用いた世代間交流プログラムは,3時間30分のセッションを1週間に1回,5週間継続して実施されました.セッションの内容は,LINEやFacebook,オンラインのアルバムやビデオファイルの使い方についての学習,世代間でのゲームの実施,LINEグループによる世代間の交流などでした.このプログラムは,高齢者へソーシャルメディアを学習する機会を提供し,そしてそれを活用しながら世代間交流を図るという内容で,高齢者の嗜好に考慮する必要はありますが,現代社会に即したオリジナリティのあるプログラムではないかと考えられました.


2.調査研究

Mary Dioise Ramos PhD, RN (2023)
Exploring the relationship between planned behavior and self-determination theory on health-seeking behavior among older adults with hearing impairment
聴覚障害を有する高齢者の健康追求行動における計画行動理論と自己決定理論の関係の探求
Geriatr Nurs. 2023 July-August; 52: 1-7.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.05.001


要旨

 本研究の目的は,聴覚障害を有する高齢者の健康追求行動を予測するうえでの計画行動と自己決定理論の関係を検討することであった.60歳以上の対象者103名に自記式質問紙を用いた調査を実施した.質問項目は,健康追求志向,知識能力,関連性,態度,スティグマ,自覚している能力および自律性に関する変数であった.研究の結果,計画行動と自己決定理論モデルの両方が,聴覚障害を有する高齢者の健康追求志向と行動を有意に予測することが示された.より高い知識能力,関連性,肯定的態度,自覚している能力と自律性は,健康追求志向と行動の有意な予測因子であることが明らかになった.本研究の結果は,知識能力,関連性,肯定的態度,自覚している能力と自律性を高めることを目的とした介入が,聴覚障害を有する高齢者の聴覚に関連した健康を追求する行動の促進に有効である可能性を示唆している.今後は,これらの変数が健康追求行動の予測に果たす役割や,この集団における聴覚に関する健康増進のための介入の効果について更なる探求が必要であろう.本研究から得られた知見は,臨床家およびヘルスケアの専門家がこの集団をターゲットにした介入を立案する際に役立つであろう.


国際交流委員会からのコメント

この研究は,計画行動理論(Theory of Planned Behavior: TPB)と自己決定理論(Self-Determination Theory: SDT)による概念モデルが,聴覚障害を有する高齢者の健康追求行動を予測するかについて調査したもので,アメリカで実施されました.聴覚障害を有する高齢者は年齢と共に徐々に増加し,75歳以上では約50%の方が聴覚障害を有していると言われています(本文より).聴覚障害は認知機能やQOL等に影響するとされ,近年研究が進んでいます.論文には計画行動理論,自己決定理論による概念枠組みの図が掲載されているので,そちらを確認すると調査の概観が視覚的に把握できると思います.


3.調査研究

Takazumi Ono Msc, Misato Nihei PhD, Tomoki Abiru MSc, Kaname Higashibaba MSc, Tomohiro Kubota PhD (2023)
Association between meaningful activities at home and subjective well-being in older adults with long-term care needs: A cross-sectional study
要支援・要介護高齢者における自宅での意味のある活動と主観的ウェルビーイングの関連:横断研究
Geriatr Nurs. 2023 July-August; 52: 121-126.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.05.013


要旨

 本研究の目的は,介護保険で要支援・要介護の認定を受けた高齢者の外出の嗜好性によって,自宅での意味のある活動への参加が主観的ウェルビーイングと関連するかどうかを検討することであった.日本の介護施設に自記式質問紙を配布し,線形混合効果モデル回帰分析によりデータの解析を行った.従属変数は主観的ウェルビーイングとし,独立変数は自宅での意味のある活動の数,外出嗜好性,およびそれらの交互作用とした.217名のデータを分析した結果,自宅での意味のある活動の数(B=0.43;95%CI:0.17, 0.70)と,自宅での意味のある活動の数と外出嗜好性との交互作用(B=-0.43;95%CI:-0.79, -0.08)の両方が主観的ウェルビーイングと関連していることが明らかとなった.これらの結果は,外出を好まない高齢者が自宅での意味のある活動に参加することの重要性を示唆している.我々は,高齢者がそれぞれの嗜好に合った活動に参加するよう奨励すべきであろう.


国際交流委員会からのコメント

この論文は,日本で実施された調査研究です.主観的ウェルビーイングの測定には,改訂版Philadelphia Geriatric Center Morale Scale(PGCMS)という尺度が使用されています.自宅での意味のある活動については,活動のリスト(読書,音楽鑑賞,自宅でのスポーツ観戦など)から対象者にとって意味のある活動と思うものをチェックしてもらっています.外出の嗜好性については,「私は家にいるのが好きだ」と「私は家にいるより外出する方が好きだ」の2つの質問について4段階のリッカート尺度を用いて回答してもらっています.自宅での意味のある活動の数と外出を好まない高齢者のウェルビーイングが関連していることから,著者は外出を好まない要支援・要介護高齢者には,必要以上に外出を勧めるべきではないと論じています.また,外出しないことでADLの低下などが危惧されますが,在宅での身体活動や社会的交流にICT(情報通信技術)などを活用することでその点を補う可能性も述べられていました.


Vol.4

1.調査研究

Pauliina Hackman, Marja Hult, Arja Häggman-Laitila
Unfinished nursing care in nursing homes
ナーシングホームにおける未完了(Unfinished)の看護ケア
Geriatr Nurs. 2023 May–June;51:33-39.
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.02.010


要旨

 本研究は,ナーシングホームにおける未完了の看護ケア活動について記述することを目的とした.この研究は横断的調査として実施され,BERNCA-NH-instrumentと1つの自由形式の質問を用いていた.研究参加者は,ナーシングホームのケアワーカー486名であった.研究の結果,20の看護ケア活動のうち平均して7.3が未完了であった.未完了の活動の多くは,入居者の社会的ケアとケアの記録に関するものであった.女性であること,年齢,専門職としての経験,が未完了のケアの発生しやすさを増加させていた.未完了のケアは,リソースの不足,入居者の特性,予期せぬ状況,看護ケア以外の活動,ケアの組織化と指揮(organizing and leading)における課題などの結果であった.本研究の結果から,ナーシングホームでは必要なケア活動のすべてが行われているわけではないことが示唆された.未完了の看護活動は,入居者のQOLに影響を与え,看護ケアの認知度を低下させる可能性がある.ナーシングホームのリーダーは,未完了のケアを減らすために重要な役割を担っている.今後の研究では,未完了の看護ケアを減らし,予防する方法について取り組むべきである.


国際交流委員会からのコメント

この研究はフィンランドのナーシングホームにおける未完了の看護ケアについて明らかにした調査研究です.未完了の看護ケアはunfinished nursing care,missed care,implicit rationingなどと呼ばれ,保健医療の質評価の研究で2001年に導入された概念だそうです.未完了の看護ケアに関する研究は急性期病院においてより多く行われており,高齢者ケアの領域ではそれほど多くないとのことでした. 著者らは,BERNCA-NH-instrumentという20項目のケアの未完了について評価できる評価尺度と,未完了のケアの理由を聞く自由形式の質問により調査を行っています.ケアの未完了の理由としてもっとも指摘されていたのはリソースの不足であり,その状況は多くの国の高齢者ケアの現場で共通するのではないかと考えられました.


2.質的研究のシステマティックレビュー

Yuxin Shi, Yurong Yang, Li Wang, Jun Zang
The lived experiences of loneliness of older adults with chronic conditions aging at home: A qualitative systematic review and meta-aggregation
慢性疾患を持つ在宅で生活する高齢者の孤独の経験:質的研究のシステマティックレビューとメタ統合
Geriatr Nurs. 2023 May-Jun;51:274-285.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.03.025


要旨

 本研究の目的は,慢性疾患を抱えながら在宅で生活する高齢者の孤独の経験と認識について,入手可能な最善のエビデンスを統合することであった.Web of Science,PubMed,Embase,CINAHLおよびその他のデータベースを検索し,慢性疾患を抱えながら在宅で生活する高齢者の孤独の体験に関する質的研究を収集した.レビューに含まれた研究は,2名の研究者により独立してThe JBI Critical Appraisal Checklist for Qualitative Researchを用いて評価された.6つの研究をレビューした結果,次のような4つのテーマにまとめられた.(a)孤独による否定的な感情と満たされない社会的ニーズ,(b)慢性疾患の症状が孤独に及ぼす影響についての自己認識,(c)孤独に対処するための自己戦略,(d)孤独を緩和するソーシャルサポート.在宅で生活する高齢者は,孤独による否定的な感情や満たされない社会的ニーズにより苦しんでおり,それらは,慢性疾患の症状に影響されていた.また,在宅で生活する高齢者は孤独感に対処するための自己戦略や社会的支援を用いていた.


国際交流委員会からのコメント

高齢者の孤独についての質的研究を中国の看護学の研究者たちがまとめた内容です.レビューに含まれた6つの研究は2014年から2020年の間に,アメリカ,ノルウェイ,ニュージーランド,オランダから出版された論文でした.4つのテーマは包括的に見え具体的な内容が理解しにくいと思いますが,本文には孤独の影響,慢性疾患の症状と孤独の関係,孤独に対処するための戦略やソーシャルサポートなどがより詳しく記述されています.


3.アンブレラレビュー

Eltaybani S, Kawase K, Kato R, Inagaki A, Li CC, Shinohara M, Igarashi A, Sakka M, Sumikawa Y, Fukui C, Yamamoto-Mitani N.
Effectiveness of home visit nursing on improving mortality, hospitalization, institutionalization, satisfaction, and quality of life among older people: Umbrella review.
訪問看護の死亡率,入院,施設入所,満足度,QOLに対する効果:アンブレラレビュー
Geriatr Nurs. 2023 May-Jun;51:330-345.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.03.018


要旨

 このアンブレラレビューは,JBIの方法論に従い,60歳以上の高齢者に対する長期的な訪問看護の,死亡率,入院率,施設入所率,患者満足度,QOLの改善の効果に関するシステマティックレビューを統合したものである.8つの文献データベースが検索され,22の関連する個別の試験(n = 10,765人)を含む10件のレビューがこのアンブレラレビューに組み入れられた.死亡率はもっとも多く検討されたアウトカムであり,満足度はもっとも検討されていないアウトカムだった(それぞれ9件,あるいは1件のレビュー).訪問看護は,入院の回数を減少させる好ましい効果を示していたが(2つの試験[参加者1152人]で好ましい効果が示され, 3つの試験[参加者788人]で効果は認められていなかった),他のアウトカムでは効果は認められていなかった.高齢者に対する長期的な訪問看護の有効性に関するエビデンスは乏しい.今後の研究は,介入がどのようなメカニズムにより効果があると期待されるかを説明する理論的基盤に基づいて行う必要がある.


国際交流委員会からのコメント

日本の研究チームによって厚生労働科学研究費によっておこなわれた,訪問看護の効果に関するアンブレラレビュー(システマティックレビューのレビュー)です.Open Science Frameworkに事前にプロトコルが登録され,プロトコル論文も出版されたうえでプロトコルに沿って行われています.このレビューに含まれた研究の多くは西欧諸国からの論文であったようですが,その理由の一つとして米国などでは訪問看護の質の評価と報告が義務付けられている(例.米国のOASIS(Outcomes and Assessment Information Set))ことを著者らはあげています.今後日本を含むアジア諸国からの訪問看護の効果に関する論文の公表が期待されます.


Vol.3

1.質的研究

Liu Sun, PhD, RN, Jun-E Liu, PhD, Meihua Ji, PhD, Yanling Wang, MS, Shaohua Chen, PhD Lingyun Wang, BS, RN(2022)
Coping with multiple chronic conditions among Chinese older couples: A community of shared destiny.
中国の高齢夫婦における複数の慢性疾患への対処
Geriatric Nursing, 48, November–December, p.214-223
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2022.09.019


要旨

 複数の慢性疾患(MCCs)は,患者とその配偶者に影響を与える.我々は,MCCsを持ちながら生活する中国の高齢夫婦の経験を調査し,彼らが夫婦としてどのようにMCCsに対処しているのかについて深く理解することを目的とした.半構造化面接を用いた質的研究デザインを実施した.参加者は60歳以上の16組の夫婦であり,NVivoソフトウェアを用いて主題分析を実施した.包括的なテーマ「運命を共有する共同体」のもと,次の4つのテーマが特定された:(i)通常の生活における様々な変化と影響,(ii)MCCsがもたらす多面的で動的なストレスと夫婦の課題,(iii)老化や運命論の影響を受けた形でのMCCsの受容と内省,(iv)運命共同体に基づく相互支援と夫婦の適応.MCCsへの対処は,高齢夫婦二人三脚での周期的な旅であった.この結果は,医療関係者がMCCsを抱える高齢夫婦に的を絞った介入策を開発する上で重要である.


国際交流委員会からのコメント

複数の慢性疾患を抱える患者は世界的に増加しています.MCCsとともに生きる高齢患者とその配偶者の状況の受け入れから対処までのプロセスを,中国の高齢夫婦の価値観をベースに明らかにされています.その価値観がどこから来ているのかについてもデータから述べられていて興味深いです.対処の方法を夫婦二人三脚で模索していくプロセスが図式化されており,その図を基に「高齢夫婦の周期的な旅」の説明があります.MCCsを抱える高齢患者に対するケアへの示唆が得られる資料であると思います.興味のある方はぜひ本文をお読みください.


2.量的研究

Andrea Yevchak Sillner, PhD, RN, Diane Berish, PhD, Tanya Mailhot, PhD, RN, Logan Sweeder, RN, Donna M. Fick, PhD, RN, FAAN, Ann M. Kolanowski, PhD, RN, FAAN(2023)
Delirium superimposed on dementia in post-acute care: Nurse documentation of symptoms and interventions
急性期ケア後に認知症に併発するせん妄:症状と介入の看護記録
Geriatric Nursng, 49, January–February p.122-126 URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2022.11.015


要旨

 認知症に併発するせん妄(DSD)は,急性期医療病院後の施設(PAC)へ退院した高齢者によく見られる.ベストプラクティスガイドラインでは,せん妄の症状を正確に記録し,せん妄を管理するために非薬物療法で看護師主導の介入を行う必要性が強調されているが,PAC環境ではせん妄に対するケアの状況についてほとんどわかっていない.そして,看護師の記録についても,記録の頻度やその内容についてまだ十分に明らかにされていない.本研究の目的は,大規模な単盲検ランダム化比較試験の二次データ解析において,DSDの症状や非薬物介入に関する看護記録の頻度や内容を明らかにし,年齢・性別・配偶者の有無,認知症のステージ,合併症レベル,薬の総数などの変数と,せん妄の症状及び介入に関する看護記録との間に関連があるかどうかを明らかにすることであった.サンプルの75%弱は,看護スタッフによって少なくとも1つのせん妄の症状が記載されていたが,25.9%は専門家によってせん妄と判定されたにもかかわらず,看護記録には何も記載がなかった.介入に関する記載は32%のみであった.記載されていた介入の数は,記載されていた症状の数と有意に関連していた.このような環境における脆弱な高齢者へのケアにインパクトを与えるために,効率的で正確な方法でDSDの症状や介入を看護師が文書化して伝えることに関する研究と革新が必要である.


国際交流委員会からのコメント

DSDが急性期病院を退院した高齢者によくみられる状況であるのに,看護師のせん妄や介入に関する記述割合は低い傾向にあるという調査結果は,せん妄のケアが行われていてもその記録がないために検証が行いにくいことを示していると言えます.認知症高齢者への効果的なせん妄ケアを行うためには,看護師の記録が重要であるということの示唆になっていると思います.興味のある方はぜひ本文をお読みください.


3.介入研究

Sarit Orlofsky, PhD, RN, CNS-MS, CDP, Kathryn Wozniak, PhD(2022)
Older adults' experiences using Alexa
高齢者のアレクサ使用における経験
Geriatric Nursing, 48, November–December, p.247-257 URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2022.09.017


要旨

 米国では65歳以上の成人が2040年に8100万人,2060年に9500万人に増加すると予想されている.Amazonのアレクサに代表される音声作動型パーソナルアシスタント(VAPA)は,自宅での健康,ウェルネス,社会参加,日常機能をサポートするスマートホーム技術を使って,高齢者がうまく年を重ねられるようにする可能性を持っている.この可能性をさらに探るため,AmazonのアレクサVAPA機器を6ヶ月以上使用した65歳以上の在宅高齢者12名にインタビューを行った.インタビューの目的は,高齢者の機器の使用に関する認識と経験を知ること及びこのテクノロジーが高齢者体験をどのように形成したのかについての洞察を得ることであった.高齢者は,アレクサの使用に関する初期および継続的なトレーニングやサポートを比較的受けなかったため,アレクサの全機能や特徴を十分に理解していないことが示唆された.高齢者はまた,他の手段よりもアレクサを使用する方が便利な場合にアレクサの使用を楽しんでいたが,アレクサを在宅で生活していくために不可欠なものとは考えていなかったようである.


国際交流委員会からのコメント

地域在住高齢者がIT技術を使い生活を便利にするためには,その使用方法について継続的な支援が必要であるといえる一つの資料になっていると思います.今後,医療DXの推進により日本の地域在住高齢者にも遠隔診療などが行われていくと予測されるため注目すべき結果と言えますが,高齢者の生活を便利にすることと豊かにすることは異なるのかもしれません.興味のある方はぜひ本文をお読みください.


Vol.2

1.質的研究

Hee Sun Kang, In Soon Koh, Kiyoko Makimoto, Miyae Yamakawa. (2023).
Nurses’ perception towards care robots and their work experience with socially assistive technology during COVID-19: A qualitative study
COVID-19禍におけるケアロボットに対する看護師の認識と社会支援技術を利用したケアの経験:質的研究
Geriatric Nursing, 50, March-April, 234-239.
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0197457223000319


要旨

 本研究は,ケアロボットに対する看護師の認識と社会支援技術を使用する高齢者へのケア経験について探索することを目的とした.本研究では,認知症高齢者もしくは独居高齢者をケアする看護師18名を対象に質的記述的調査を行った.Zoomを用いたインタビューを実施した後,収集したデータを帰納的に分析した.内容分析の結果,(1)認識された利点(2)認識された課題(3)ケアの質を高めるために必要な改善点の3つのテーマが抽出された.参加者は,COVID-19禍においてケアロボットや社会支援技術は高齢者ケアに有用であると認識していた.その一方で,社会支援技術の性能的限界や労働負担の増加は高齢者ケアに負の影響を及ぼしていると感じていた.本研究結果は,社会支援技術やケアロボットが認知症高齢者や独居高齢者を支援する上で有益となる.


国際交流委員会からのコメント

COVID-19禍におけるケアロボットや社会支援技術の有用性に関して看護師の認識や経験を質的にまとめた研究です.高齢化が進むアジア地域において,高齢者ケアを担う看護・介護人材不足は喫緊の課題であり,本研究で紹介されたようなケアロボットや社会支援技術へのニーズは今後益々高まることが予測されます.テクノロジー導入によるベネフィットとリスクを考え,医療者・患者ともに有用な使い方を探索することが求められるのではないかと思います.


2.量的研究

Shasha Li, Yuecong Wang, Lijun Xu, Yingyuan Ni, Yingxue Xi. (2023).
Mental health service needs and mental health of old adults living alone in urban and rural areas in China: The role of coping styles
中国の都市部及び農村部における独居高齢者のメンタルヘルスとそのサービスについて:対処行動がメンタルヘルスに及ぼす影響
Geriatric Nursing, 50, March-April,124-131. URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0197457223000204


要旨

 本研究は,都市部と農村部に在住する独居高齢者のメンタルヘルス,メンタルヘルスサービスへのニーズ,メンタルヘルスへの対処行動について調査するとともに,メンタルヘルスへの対処行動が独居高齢者のメンタルヘルスやメンタルヘルスサービスにどのように影響しているかについて明らかにすることを目的とした.本研究では,717名の独居高齢者を対象に横断研究を行い,構造方程式モデリング及びブートストラップ法を用いて分析した.分析の結果,都市部は農村部よりもメンタルヘルスやメンタルヘルスサービスへのニーズが有意に低い一方で,対処行動に関するスコアは有意に高かった.また,都市部においてメンタルヘルスサービスへのニーズはメンタルヘルスにプラスの直接効果を示していた.さらに,都市部・農村部ともにメンタルヘルスサービスへのニーズは対処行動を媒介しメンタルヘルスに影響を及ぼしていた.本研究は,地域における独居高齢者への精神的な看護支援を検討する上での基礎資料となる.


国際交流委員会からのコメント

独居高齢者は社会的孤立に陥りやすく,メンタルヘルスが悪化しやすいことは様々な媒体で報告されています.本研究は,717名の中国人独居高齢者を対象にメンタルヘルスとサービス及び対処行動との関連について着目した研究であり,地域に暮らす独居高齢者に対しどのような精神的サポートが有用であるかを把握する上で有益です.


3.介入研究

Chun-Chin Tsai, Hsiu-Li Lee, Chia-Shan Wu, Pin-Yu Chen, Ting-Wei Chen, Mei-Fang Chen.(2023).
The efficacy of a mindfulness-based exercise program in older residents of a long-term care facility in Taiwan.
台湾の高齢者施設に入所する高齢者におけるマインドフルネスをベースとした運動プログラムの効果
Geriatric Nursing, 50, March-April, 227-233. URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0197457223000290


要旨

 高齢者施設に入所する高齢者はその多くが身体不活動状態にあり,彼らへの運動促進は不可欠である.本研究では,台湾の高齢者施設に入所する高齢者を対象に,マインドフルネスをベースとした運動プログラムを実施しその有効性について評価した.(訳者註:マインドフルネスをベースとした運動とは,1つ1つの動作に意識を集中させ,心の動きに対する身体の反応を感じ取りながら行う運動である.)便宜的サンプリングにて72名の高齢者施設入所者を収集し,介入群・対照群の2群に分けた.介入群(n=36)には8週間の運動プログラムを実施し,対照群(n=36)には日常的なケアを提供した.一般化推定方程式による解析の結果,ベースラインと介入直後及び介入3か月後において,実験群は対照群よりも転倒への恐怖,運動自己効力感,動的バランス,筋力の項目について有意に向上した.本研究は,高齢者施設に入所する高齢者の運動実践をどのように向上させるかについて検討する上で有用な資料となる.


国際交流委員会からのコメント

近年,注目されているマインドフルネスを用いた研究です.マインドフルネスとは,今現在,起こっている経験に注意を向ける心理的な過程とされ,瞑想や訓練などを通して発達させることができるといわれています. 本研究は,台湾の高齢者施設に入所する高齢者を対象にマインドフルネスエクササイズ介入への効果を検証した研究です.本研究の運動プログラムでは,様々な筋力アップ運動を組み合わせた1回100分の運動を8週間実施されていました.論文中では,その運動内容がイラストを用いて視覚的にもわかりやすく紹介されています.介入内容にご関心のある方は是非論文をご覧ください.


Vol.1

1.質的研究

Yang Yu-ting, Yao Miao, Yang Yong-wei, Ye Qiong, Lin Ting. (2022).
Exploring urban empty-nesters' using WeChat influencing factors and quality of life: A qualitative descriptive study.
都市部の子供が巣立った家に住む親のWeChatの使用に影響する要因と生活の質の探索:質的記述的研究
Geriatric Nursing, 48, November-December, 183-189.
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S019745722200235X


要旨

【目的】都市部の子供が巣立った家に住む親のWeChatの使用に影響する要因と生活の質を探索する. 【方法】福州地域で,WeChatを使用していた,子供が巣立った14人の親を,質的記述的研究デザインのために,便宜的合目的的サンプリング法を用いてリクルートした.データは個別に対面による半構造化面接を通して収集し,内容分析を用いて分析した. 【結果】調査により,2つの主テーマとそれに関連するサブテーマが明らかとなった:1)WeChatの使用の影響因子,2)生活経験の質,である. 【考察】都市部の子供が巣立った家に住む親にとってのWeChat使用の影響要因は,生理学的要因,教育レベル,ソーシャルサポートであった.WeChatは子供が巣立った家に住む親にとって日々の生活を向上させる便利な手段であり,子供が巣立った家に住む親のニーズを満たす実践的なプラットホームである.これらの経験を明らかにすることは高齢者,とりわけ子供が巣立った家に住む老親が知性の時代を受け入れることに役立ち, ますます常態化していく子どもが巣立った家での生活にひらめきや参考になる情報を与えるだろう.


国際交流委員会からのコメント

WeChatとは,中国で開発された世界で10億以上の人が登録していると言われているメッセンジャーアプリです.日本でも高齢の方々がメッセンジャーアプリを使われることも増えていると思います.日本でも,子どもが巣立った後の高齢者の生活におけるテクノロジーの活用について把握することが有益かもしれません.


2.量的研究

Tomoyuki Shinohara, Kosuke Saida, Shigeya Tanaka, Akihiko Murayama, Daisuke Higuchi.(2022).
Factors for the change in frailty status during the COVID-19 pandemic: A prospective cohort study over six- and 12-month periods in Japan.COVID-19
パンデミックにおけるフレイル状態の変化に対する要因:日本における6ヵ月,12ヵ月後の前向きコホート研究 Geriatric Nursing, 48, November-December,111-117. URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0197457222002002


要旨

 本研究の目的は,COVID-19下でのフレイル状態とフレイル状態の変化に関連する要因を明らかにすることである.2020年5月から7月,2020年11月から2021年1月,2021年5月から7月の,6ヵ月ごと3回のコホート研究を実施した.フレイル状態は,フレイルスクリーニング指標を用いて評価した.フレイル状態の変化が健康状態やライフスタイルに関連しているかどうかを明らかにするために,多変量一般化線形混合効果モデルを用いた.404の調査票を分析した.咀嚼機能の減退(β=0.552)と下肢筋力の低下(β=0.515)が,有意に6ヵ月後のフレイル状態の変化に関連しており,下肢筋力の低下(β=0.512)は12ヵ月後のフレイル状態の変化に関連していた.健康の悪化に関するリスク要因は適切なサポートを行っていくために評価されるべきである.とりわけ,高齢者における主観的な下肢筋力の低下の評価は重要である.


国際交流委員会からのコメント

高崎健康福祉大学の理学療法学科の研究者らによる日本からの発信です.コロナ禍のような高齢者の身体活動が制限される状況でのフレイル予防の方法の開発の必要性の根拠の一つとなる実証研究と思います.


3.ランダム化比較試験による研究

Lili Chen, Huizhen Cao, Xiaoqi Wu, Xinhua Xu, ... Hong Li. (2022).
Effects of oral health intervention strategies on cognition and microbiota alterations in patients with mild Alzheimer's disease: A randomized controlled trial.
軽度アルツハイマー病患者におけるオーラルヘルス介入戦略の認知と微生物叢の変化についての効果:ランダム化比較試験
Geriatric Nursing, 48, November-December, 103-110. URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0197457222002075


要旨

 私たちは,軽度アルツハイマー病患者に対するオーラルヘルス介入の口腔細菌叢と認知機能への効果を探索し,疾患の進行への影響を明らかにした.66人の軽度アルツハイマー病患者をランダムに介入群と対照群に割り当て,それぞれに24週間のオーラルヘルス介入あるいは通常ケアを実施した.データはベースラインと24週目に収集した.口腔の細菌叢の分析には16SリボソームRNAシーケンスを用いた.24週間のオーラルヘルス介入の後,カイザー・ジョーンズ短縮口腔健康検査(BOHSE),Mini-Mental State Examination(MMSE),神経精神医学的調査(NPI),老人ホーム適応尺度(NHAS),アルツハイマー病関連研究-ADL(ADCS-ADL)得点はグループ間で異なっていた(p < 0.05).アルツハイマー病患者の歯肉縁下の歯垢は,多様で多くの口腔細菌叢を示し,介入グループではより多くの正常な口腔細菌叢を示した.オーラルヘルス介入戦略は,歯肉縁下の歯垢の改善と軽度アルツハイマー病患者における認知機能の低下を遅らせることに効果的であることを明らかにした.


国際交流委員会からのコメント

多要素介入を,RNAシーケンスと複数の評価尺度によって評価した中国で行われたランダム化比較試験です.オーラルヘルス介入は3日間のトレーニングを受けたファシリテーターにより行われ,作業療法プログラムに基づいた3週間に1回の訪問や,口腔セルフケアの促進,self-determination theoryに基づいて開発された多職種による講義などで構成されていたようです.実際に行われた介入内容に関心のある方は論文を確認されるとよいかもしれません.