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国際交流委員会から国際誌掲載論文のご紹介
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この企画は,本学会会員の皆様の看護実践や研究活動等に役立つと思われる国際誌掲載論文を紹介することを目的としています.高齢者の生活施設で勤務する看護師の団体であるAmerican Assisted Living Nurses Associationと老年看護の高度実践看護師の団体であるGerontological Advanced Practice Nurses Associationの公式雑誌であるGeriatric Nursing誌から1回につき3つの論文のタイトルと要旨を翻訳しご紹介します.ご紹介する論文はGeriatric Nursing誌の最新巻から,文化が類似していて,日本の実践・研究に参考にしやすいと思われる東アジア圏(日本,中国,韓国,台湾等)の著者の論文を主に選定します.
今後,2か月に1回程度ご紹介する予定です.会員の皆様に興味を持っていただけそうな論文を選んで紹介させていただきます.関心のあるテーマなどございましたら,お知らせください.

日本老年看護学会国際交流委員会

INDEX

Vol.8

1.質研究

Ashley Leak Bryant PhD RN FAAN, Rachel Hirschey PhD RN FAAN, Courtney E. Caiola PhD MPH RN, Ya-Ning Chan PhD RN, Youngmin Cho MSN RN, Brenda L. Plassman PhD, Bei Wu PhD FAAN, Ruth A. Anderson PhD RN FAAN, Donald E. Bailey Jr. PhD RN FAAN (2024)
Care partners experience of an oral health intervention for individuals with mild cognitive impairment and mild dementia using behavior change technique: A qualitative study
家族介護者における軽度認知機能障害もしくは軽度認知症者への行動変容テクニックを用いた口腔ケアの経験:質的研究
Geriatr Nurs. 2024 March–April; 56:40-45
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.12.021


要旨

 本研究は、軽度認知機能障害者(MCI)もしくは軽度認知症者(MD)を介護する家族介護者25名(MCI介護者15名、MD介護者10名)を対象に、行動変容テクニックを用いた口腔ケアのコーチングセッションを3か月間実施し、セッション中の介護者とのやりとりを質的に分析したものである。プログラム内容はMCI用とMD用に分けられた。分析の結果、MCI介護者、MD介護者ともに、被介護者へ口腔ケアを促すための適切なタイミングや環境を見計らっていた。また、どのように行動を促すかについて被介護者へ助言したり、その都度目標設定を変更しながら少しずつ行動変容を促したりしていた。さらに、行動に影響する要因の分析や困難を乗り越えるための方法を選択していた。MCI介護者は被介護者が口腔ケアを実施できる機会をうかがっていた一方で、MD介護者は口腔ケアの専門家から助言を得ていた。今回の介入は、介護者が口腔ケアを促すためにMCIやMDの行動変容のメカニズムを解明する一助となる。


国際交流委員会からのコメント

この研究は、行動変容テクニックを用いた介入によって軽度認知機能障害者もしくは軽度認知症者が口腔ケアを実施できるように介護者はどのように行動変容を促せばよいかについて、質的に明らかにした研究です。具体的なプログラム内容については本文中に紹介されていますので、ご関心のある方は是非ご一読ください。


2.横断研究

Rebecka Maria Norman, Ingeborg Strømseng Sjetne (2024)
Associations between nursing home care environment and unfinished nursing care explored. Secondary analysis of cross-sectional data
高齢者ナーシングホームにおけるケア環境と未完了のケアとの関連:横断研究データの二次解析
Geriatr Nurs. 2024 March–April; 56: 55-63.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.12.023


要旨

 本研究は、高齢者ナーシングホームにおけるケア環境と未完了の看護ケアとの関連について明らかにすることを目的とした。参加者はノルウェーのナーシングホーム66カ所で勤務する介護職者931名であり、有効回答率は37%であった。ケア環境に関しては、対人関係におけるリーダーシップ、専門的能力の開発、資源、専門職としてのリーダーシップ、意見を求め承認を得ること、利用者や近親者との関係、多職種連携、言語的コミュニケーションエラー、不安感の9項目について5件法(never”=1~“always”=5)で測定した。未完了のケアに関しては、ルーティーンケア、利用者から要求があったときの対応、記録業務、社会心理的ケアの4項目について、時間が確保できないことや仕事量が多いことが理由で過去7日間の勤務の中でどのくらいケアが行えなかったかを4件法(“never’’=1~‘‘often’=4)で測定した。分析の結果、専門的能力の開発はルーティーンケア、記録業務、社会心理的ケアと関連があった。資源や利用者や近親者との関係、多職種連携は全ての未完了ケア項目と関連があった。言語的コミュニケーションエラーは利用者から要求があったときの対応、記録業務、社会心理的ケアと関連があった。不安感はルーティーンケア、利用者から要求があったときの対応、記録業務と関連があった。以上より、良いケア環境で勤務する介護者は未完了のケア頻度が少ないことが示唆された。今回の研究で得られた知見は、高齢者ナーシングホームにおいて利用者に良い影響を与える人的資源をマネジメントするための一助となる。


国際交流委員会からのコメント

この研究は高齢者ナーシングホームにおけるケア環境と未完了の看護ケアとの関連についてノルウェーの研究者がまとめたもので、ケアの質を向上させるためにどのような環境づくりが有用であるかを検討するのに有用な論文です。未完了の看護ケア(Unfinished, rationed, missed, or otherwise undone nursing care)とは2001年にAikenらによって導入された概念で、スキルや時間等のリソース不足によって必要な看護ケアが終了しなかった状態のことを指します(Aiken LH et al, 2001)。未完了の看護ケアに関する論文はVol.4でもご紹介していますので、ご関心のある方はそちらもご覧ください。


3.ランダム化クロスオーバー試験

Claire Wang MHSc, Mengchi Li PhD, Sarah Szanton PhD, Susan Courtney PhD, Alex Pantelyat MD, Qiwei Li PhD, Jing Huang PhDc, Junxin Li PhD (2024)
A qualitative exploration of 40 Hz sound and music for older adults with mild cognitive impairment
軽度認知機能障害のある高齢者への40Hz音楽の質的効果
Geriatr Nurs, 2024 March–April: 56: 259-269.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.02.005


要旨

 本研究では、軽度認知機能障害のある高齢者を対象に40Hzの音や曲の効果について検証することを目的に、ランダム化クロスオーバー試験を実施した。参加者はMoCAスコア18-25点もしくはFAQスコア6点未満の50歳以上の地域在住者25名であった。介入開始前に参加者をランダムに3グループに分け、3種類の異なる音楽をそれぞれ1回1時間、週5回、計4週間ずつ聴いてもらった。3種類の異なる音楽については、Condition A: 曲リストの中から参加者自身が選曲した音楽、Condition B: 40Hz音(*バズノイズやテレビの砂嵐音、セミの鳴き声が近い)、Condition C: 40Hzにカスタムした曲リストの中から参加者自身が選曲した音楽とした。ウォッシュアウト期間として2週間設けた。効果を評価するために、各介入後に曲を聴いた印象や心地よさ等に関して半構造化インタビューを実施した。その結果、自身で選曲した音楽を聴くことで記憶力の向上や精神的安寧を感じた参加者がいた一方で、40Hz音は不快に感じる参加者もいた。40Hzにカスタムした曲は、参加者の体感を向上させ、40Hz音のマイナス面を緩和することでバランスをとっていた。また、介入効果は、個人の音楽の嗜好や音楽を聴く習慣、ネットワーク環境に影響されることも明らかとなった。本研究結果から、軽度認知機能障害のある高齢者にとって40Hz音楽は有用である可能性が示唆された。


国際交流委員会からのコメント

この研究は、アメリカで行われた研究であり、軽度認知機能障害者のある高齢者に対して40Hz音楽は記憶力向上や精神的安寧に有効であることが示されています。他の研究でも、40Hz音は認知症の原因といわれている脳内のアミロイドβタンパク質の有意な減少が確認されたといった報告があり(Iaccarino HF et al, 2016)、音楽療法が認知機能障害に有効であることのエビデンスを蓄積する動きも進んでいます。日本においてもガンマ派サウンドの認知機能への影響について近年注目が高まっており、今後効果が検証されていくことが期待されています。