この企画は,本学会会員の皆様の看護実践や研究活動等に役立つと思われる国際誌掲載論文を紹介することを目的としています.高齢者の生活施設で勤務する看護師の団体であるAmerican Assisted Living Nurses Associationと老年看護の高度実践看護師の団体であるGerontological Advanced Practice Nurses Associationの公式雑誌であるGeriatric Nursing誌から1回につき3つの論文のタイトルと要旨を翻訳しご紹介します.ご紹介する論文はGeriatric
Nursing誌の最新巻から,文化が類似していて,日本の実践・研究に参考にしやすいと思われる東アジア圏(日本,中国,韓国,台湾等)の著者の論文を主に選定します.
今後,2か月に1回程度ご紹介する予定です.会員の皆様に興味を持っていただけそうな論文を選んで紹介させていただきます.関心のあるテーマなどございましたら,お知らせください.
日本老年看護学会国際交流委員会
Effectiveness of a digital health coaching self-management program for older adults living alone with multiple chronic conditions: a randomized controlled trial
複数の慢性疾患を持つ独居高齢者に対するデジタルヘルスコーチングを活用した自己管理プログラムの効果:ランダム化比較試験
Hwang M, Lee S, Park GE, Park YH.
Geriatric Nursing, Vol 65.
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2025.103509
本研究は、複数の慢性疾患を持つ独居高齢者49名を対象に、デジタルヘルスを活用した自己管理プログラム(DHCSMP-MCC)の効果の検証を目的としたランダム化比較試験である。介入期間は8週間、介入群にはDHCSMP-MCCを実施し、対照群には普段通りの日常生活を過ごしてもらった。ベースラインと8週間後にアンケート調査を実施し、自己管理習慣・服薬アドヒアランス・健康状態・健康関連QOL・デジタルヘルスリテラシー・自己効力感への効果を評価した。
その結果、介入群において心身のストレス・気分の落ち込み・デジタルヘルスリテラシーが有意に向上していた。一方で、自己管理習慣・服薬アドヒアランス・健康関連QOL・自己効力感は両群で有意差はみられなかった。
以上より、DHSMP-MCCは複数の慢性疾患を持つ独居高齢者の精神的健康やデジタルヘルスリテラシーの向上に有用であることが明らかとなった。
DHCSMP-MCCとは、複数の慢性疾患を持つ患者を対象とした疾患管理と関連症状への対処に関する自己管理支援プログラムです。具体的には、症状管理、服薬アドヒアランス、身体活動、健康的な食生活、睡眠/ストレス、オーラルヘルス、問題への対処をテーマにモバイルアプリを用いたコーチング(教育、個別の健康相談、セルフモニタリングとリマインド)が提供されるようです。
在宅移行が進む昨今、独居高齢者への疾患管理支援は喫緊の課題です。特に慢性疾患を持つ高齢者においては管理の複雑性はますます増すと考えられます。本研究では、複数の慢性疾患を持つ独居高齢者へのデジタルヘルスを活用した支援とその効果について示されており、healthy agingにテクノロジーがどのように貢献できうるのか、その可能性と課題を探る上でも有用な資料になると思います。
Reasons for driving cessation among older adults: A nationally representative cross-sectional study in South Korea
高齢者が運転中止に至る理由:韓国における全国調査横断研究
Yoon J, Shin G, Choi Y, Leigh JH.
Geriatric Nursing, Vol 65.
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2025.103463
本研究は、高齢者における運転中止の予測因子を特定し、それぞれの寄与度について調査した研究である。2020年高齢者全国調査に参加した65歳以上の2589人を対象とし、包括的なモビリティ・フレームワークに基づき、24項目の潜在的な予測因子を評価した。
解析は、ステップワイズ・ロジスティック回帰分析により有意な予測因子を抽出し、支配分析(ドミナンス分析)を用いて各因子の運転中止への寄与度を算出した。
解析の結果、モビリティ・フレームワークのすべての領域にわたる13の因子が、運転中止と有意な関連を示した。75歳以上の高齢者においては、「病院へのアクセスの良さ」が上位5つの重要因子の一つとして特に注目された。環境要因はこの年齢層における運転中止の説明変数の10%以上を占め、その影響力の大きさが示された。
特に医療機関へのアクセスのしやすさといった環境的要因は、高齢者の運転中止において重要な役割を果たすことが示唆された。信頼性の高い非運転型の交通手段を整備することで、自主的な運転制限を促進し、高齢者の移動手段と自立を維持できる可能性がある。
本研究は、韓国で実施された高齢者大規模調査です。韓国では高齢ドライバーがここ10年間で200万人以上も増えており、日本同様、高齢者への運転規制に関する方策は急務であるといえます。
本研究では、高齢者の運転中止に関する要因を網羅的に分析し、その相対的な重要度を明らかにしています。環境要因、特に「病院へのアクセス」が75歳以上の高齢者にとって運転中止の主要因であることが示された点は大変興味深い知見です。他研究では、運転中止の要因を健康状態や認知機能などの個人要因に偏って議論されているものが多い中、本研究は社会的・環境的要因の重要性を示しており、交通政策や地域づくりへの示唆を豊富に含んでいると考えます。
高齢ドライバーに対する一律の規制ではなく地域の交通資源に応じた柔軟な交通支援策の設計が、高齢者の移動の自由を提供する上で重要だと考えます。
Navigating hospital to home transitions: A qualitative study exploring older adult and informal caregiver experiences, challenges and opportunities
病院から在宅への移行支援:高齢者とインフォーマルな介護者の経験・課題・改善の機会を探究する質的研究
Kolade OR, Porat-Dahlerbruch J, van Achterberg T, Ellen ME.
Geriatric Nursing , Vol 65.
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2025.103538
体制が整備された病院環境からより自立が必要な在宅環境への移行には様々な課題があり、退院後の生活に大きな影響をもたらすきっかけとなる。本研究は、欧州TRANS-SENIORコンソーシアムの一環として実施された質的記述的研究であり、イスラエルにおける高齢者とインフォーマルな介護者が経験した病院から在宅への移行に関する体験を探り、ケア移行の最適化に向けた課題と可能性を明らかにすることを目的とした。
過去12か月以内に病院から在宅移行した7名の高齢者と9名のインフォーマルな介護者を対象に、個別インタビューを実施した。テーマ分析の結果、肯定的/否定的両方の経験が明らかとなった。主な課題としては、断片的なヘルスケア管理やパーソンセンタード・ケアの欠如が挙げられた。一方、改善の機会としては、自律性の促進や意思決定支援、病院と地域間の連携強化が挙げられた。
本研究結果は、今後の研究や臨床的取り組みに貢献するとともに、政策立案者に対し、病院から在宅への移行体験を改善する新たな方法の模索を促すものであり、最終的にはより良い患者アウトカムと満足度の向上につながることが期待される。
本研究は、高齢者とインフォーマルな介護者の視点から、病院から在宅への移行過程における経験を質的に調査した研究です。地域・在宅中心型の医療が求められている中、病院から在宅へのスムーズな移行は高齢者本人や介護者のQOLを守る上でも非常に重要な課題です。
本研究では、病院から在宅への移行期に焦点を当て、実際にその移行を経験した高齢者と介護者の声をもとに、何がうまくいっていて、何が課題なのかを明らかにしています。特に、患者中心のケアの欠如や医療の断片化といった現場の切実な課題を示している点や、自律性の尊重や意思決定への関与促進といった改善の糸口を提示している点は、今後の実践に十分に活用されうる内容だと思います。
医療と地域がどう連携し、高齢者が安心して家に帰ることができる社会をどう作っていくかについて多くの気づきが得られる内容です。